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福岡地方裁判所飯塚支部 昭和35年(む)223号 判決 1960年11月04日

申立人 上原秀一

決  定

(申立人氏名略)

右の申立人より刑事訴訟法第五百二条に基く異議の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件申立はこれを却下する。

理由

申立人の本件異議申立の理由は、

申立人は、昭和三十四年十一月十日福岡地方裁判所飯塚支部において殺人並びに犯人蔵匿幇助罪(以下第一の各罪という。)につき懲役十三年(未決勾留日数中百六十日算入)に、傷害並びに恐喝罪(以下第二の各罪という。)につき懲役十月に各処するとの判決の言渡を受け、これに対し控訴の申立をした結果昭和三十五年三月八日福岡高等裁判所において第一の各罪については原判決破棄自判により懲役十年(未決勾留日数中百六十日算入)に処せられ、第二の各罪については控訴棄却となり、両罪の判決につき直ちに上告したが、第二の罪については同年七月三十日上告取下により判決が確定したので検察官は右懲役十月の刑の執行指揮にあたり、第二の各罪については身柄不拘束であることを理由に刑期の起算日を判決確定の日とせず、右刑の執行指揮をした日である同年八月十九日をもつて刑期の起算日とするよう執行指揮をした。しかしながら、申立人は第二の各罪については勾留されていないが併合審理された第一の各罪について勾留され、前記第二の各罪に対する裁判の確定した当時は現実に福岡刑務所に身柄を拘束されていたものであるから刑法第二十三条第一項の趣旨に依り当然裁判確定の日より刑期を起算すべきものである。よつて本件につき検察官のなした刑の執行指揮は不当であるから刑事訴訟法第五百二条により異議の申立をするというのである。

そこで考えるのに、刑法第二十三条第一項によれば、刑期は裁判確定の日から起算すると規定されているが、その趣旨は、同条第二項において拘禁されていない日数は裁判確定後であつても刑期に算入しない旨規定されていることと対比すれば、刑の執行を受くべき者が裁判確定当時当該事件につき勾留されている場合の規定であることは明白であり、従つて拘禁されていない者については拘禁された日(刑の執行指揮書によつて収監された日又は刑の執行のために収監状の発せられた時はその執行の日)から刑期が起算されることとなるのである。そうして、かかる場合において拘禁されているかどうかということは執行されるべき当該の刑(本件の場合には第二の各罪に対する刑)に関連していうべきものであり、従つて裁判確定の日に現実に身柄を拘束されていてもそれが当該の刑に無関係な事由によるものであるときは、当該の刑に関する限り、身柄不拘束の状態にあつたものとしなければならない。けだし、勾留による身柄の拘束は人に対する強制処分ではあるけれども、しかしそれはあくまでも一定の犯罪事実を縁由としてなされるものであり、犯罪事実が異なるに従つて勾留をなし得るか否かも異なるべく、ある犯罪事実を基礎としてなされた勾留の効力は、それと同一性のない他の犯罪事実に及ばないと解すべきであるからである(二重勾留が許されるのもこの理による)。このように解することは、申立人が現実に身柄を拘束されているのであるから、被告人に不利益となるように思われるかも知れないが、それは現実に勾留された期間をその勾留の基礎となつた罪の刑に算入することによつて救済され得るのであるから何ら申立人に対し不利益不公平を及ぼすものではない。

本件申立についてこれをみるに、申立人は前記第一の各罪にかかる事実についてのみ勾留状の執行をうけて身柄を拘束されたが、前記第二の各罪にかかる事実については勾留されず、右各事実は併合審理のうえ昭和三十五年十一月十日福岡地方裁判所飯塚支部においていずれも有罪判決の言渡をうけ、控訴、上告したが、そのうち第二の各事実に対する前記有罪判決については同年七月三十日に上告取下がなされたので同日確定し、上告中の第一の各罪についての被告事件とは分離されて先に刑の執行を受けることとなつた事実は、本件記録中の申立人に対する執行指揮書、第一審及び控訴審判決謄本並に勾留状二通の各写によつて明らかである。しからば、申立人は前記第二の各罪に対する裁判確定当時当該事件に関する身柄不拘束の状態にあつたものというべく、従つて福岡高等検察庁検事田中魁が右懲役十月の確定刑の執行指揮にあたり、その刑期の起算日を執行指揮の日である同年八月十九日としたことは適法妥当であるといわなければならない。

以上の理由により本件申立の理由のないことは明らかであるから、これを却下することとして主文のとおり決定する。

(裁判官 桜木繁次 川渕幸雄 松永剛)

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